妖精さんの独り言 1−5

雲風農園における共創的ガーデニングの実践


 実家に戻ってから2年、農業研修に勤しむかたわら、伯母の土地にある伯父の2畝ほどの家庭菜園を借り受けて、コークリエイティブ・ガーデニングの真似ごとをしています。元々は、亡くなった祖父が長年、作っていた畑で、後を受けた伯父も、ほとんど農薬などは使わなかったので、緑肥を植えたりしてリハビリをする必要はありませんでした。


 それで、まず、農園の妖精さんと、自然のオーバーライティング・ディーヴァさん、さらには土壌の妖精さんとつながって、採用すべき基本的な農法を確認しました。世間には色々な農法がありますが、基本的には・・・


<土壌に関して>
①炭素循環農法
②土壌生成理論に基づく農法
③西出隆一さんの農法


<作物の生育に関して>
④栄養週期理論に基づく農法
⑤バイオダイナミック農法(シュタイナー農法)
⑥小祝政明さんの有機栽培
⑦竹内孝功さんの自然菜園

に基づいてやっていこうということになりました。


 次に、栽培に使う肥料を聞いたのですが、基本的には次の肥料を使うように言われました。

①アミノエース(アミノ酸肥料)・・・N,P,K
②バットグアノ・・・P
草木灰・・・K
④貝化石・・・Ca
有機石灰・・・Ca
苦土石灰・・・Ca,Mg
⑦キーゼライト(硫酸マグネシウム)・・・Mg
⑧綿実油かす・・・N,P,K
⑨海藻粉末
⑩微量要素剤(メリット青・黄・赤)


 また、肥料以外には、病害虫の予防を目的とする米ぬかと愛媛AI(乳酸菌と酵母菌と納豆菌の培養液)の散布、土壌改良を目的とする腐植前駆物質(リードアップ)の散布とピートモスや籾殻(くん炭)の鋤き込み、最初だけ土壌改良剤の「鉄強化美土里」(鉄分およびケイ酸の補充)の散布を求められました。


 いずれにしても、1年目は「土づくり」をメインテーマにして、土壌の物理性、化学性、生物性の改善を図るために色々な作業を行ないました。土壌の物理性を改善するために、ごく浅く耕すか、場合によっては耕さないで、雑草やワラの有機物マルチで地表を覆っていく作業を行なって、ミミズやダンゴムシその他の虫さんたちが増えるようにしました。また除草も地面の下に植木ばさみを入れて切断し、根を残して、根穴構造が残る様にしました。その上で、ピートモスと籾殻をマルチの下に撒いて、腐植質を増やすようにしました。さらに、作物の収穫が終わった後の残渣も、植木ばさみでその場で切り刻んで、すべてその土地に戻すようにし、根も引き抜かないで温存するようにしました。


 土壌の化学性に関しては、腐植質を増やすことによって、土壌のCECを高めて、肥料成分の保持力を高めることをねらいました。同時に、時々、土壌酸度計で畝ごとのpHを測定し、酸性度が高い場合には石灰を振って中和するという対応をしました。


 土壌の生物性に関しては、有機物マルチでありとあらゆる土壌生物を増やす一方で、微生物環境を一定に保つ目的で、愛媛AI(乳酸菌、酵母菌、納豆菌)と米ぬか(微生物のエサ)の同時散布を、季節の変わり目ごとに繰り返しました。


 以上の作業の成果なのかどうか、耕さなくてもフカフカの土になった一方、ありとあらゆる虫さんたちと、雑草さんたちが増え、さらには近所の雀さんたちや鳩さんたち、さらにはカラスさんたちまでやってきて・・・畑のなかでごそごそするようになりました。


 病虫害は、目につくたびに畑の妖精さんを呼び出して、「この人たちは放っておいていいですか?」「抹殺(テデトール、アシデフーム)しましょうか?」「農薬を撒いていいですか?」と聞くのですが、残念なことに農薬散布の許可は下りたことがありません。せっかく、農薬の権威(研修先の農家さん)に師事して、病害虫とその防除について詳しく実地で学んでいるというのに、雲風農園に関しては知識と経験を発揮する機会がありません。


 ちなみに、ジャガイモにつくニジュウヤホシテントウに関してだけは、なぜか抹殺指令が出たことがあります。また、スイートコーンにつくアワノメイガに対しては、55〜60℃の熱湯を頭からかけるという、熱防除の許可が出て、やってみると確かにアワノメイガさんたちは死滅して、綺麗なスイートコーンが無農薬で収穫できました。


 とは言っても、1年目の収穫は贔屓目に見ても・・・あんまり(TT)。ジャガイモや長ナス、オクラは結構、収穫できたのですが、玉ねぎは雑草に負け、ピーマンやシシトウはいつのまにか消え、芽出しに失敗して播種し直した大根は太らず・・・。特にチッソの施肥の仕方がつかめていなかったのと、「あまり水をやらない方がいい」という思い込みがあったのとで、チッソ不足と水不足が相まって野菜さんたちの生育不良を引き起こしてしまったかな? というのが反省点です。


 その反省を受けて、2年目からは速効性のあるアミノ酸肥料の導入(それまでは、綿実油かすだけで対応していたので、特に気温の低い秋から冬にかけて、チッソの肥効が出なかった)と、潅水チューブによる灌水設備を導入(と言っても塩ビ管とホースとタイマーを買ってきて、自作したものです)によって、テコ入れを行ないました。そんなこんなで、現在のところは、苗を作りすぎて恐ろしいことになってしまったミニトマトと長ナスを始めとして、キュウリもばかすか採れて、家族は「今日もミニトマトとキュウリ!?」と食傷気味の日々になっています。しかも、別口で親父もミニトマトとキュウリを作っているので、どうにも収拾がつきません。来年は、親父の妖精さん? にも相談しないとまずいかも。


 そんなこんなで、何となく軌道に乗ってきたように見える雲風農園(仮称)ですが、2年間の実践のなかでも、色々と学ばされることがありました。一つは、勉強することの意味を問い直されたというか、その目的を位置づけなおす機会を与えられたことです。つまり、妖精さんたちに的確な質問をして、情報を引き出すためには、凄まじく勉強しなくてはならないし、細かく観察しなくてはならないということ。言い換えれば、適切な検索ワードを知らなければ、いくらインターネットに接続していても、有用な情報に行きつけないのと同じで、「イエス/ノー」でしか答えてくれない妖精さんたちから、的確な情報を引き出すためには、まず広い範囲の選択肢から始めて、徐々に範囲を狭めて、実用的な情報にまで行きつくようにしなければなりません。


 いきなり自分の思い込みの範囲の中で選択肢を選んで提示しても、妖精さんは答えてくれるのですが、もっと違う可能性、ある意味、自分の想定や先入観を超えた可能性を排除してしまう危険性が高くなってしまいます。農業で言うなら、科学農法から自然農法まで、一通り勉強した上で質問していかないと、自分の理想や思想を妖精さんたちに押し付けてしまうことになりかねません。一度、自分のなかの知識や経験を白紙に戻して、ゼロベースから疑問に思ったこと、何とかしたいことについて、アホな質問をしていってみると、思ってもみなかった面白い答えが返ってきて楽しいものです。


 二つ目は、やはり、人間(私)にとっての理想や目的と、自然(妖精さん)にとっての理想や目的は、異なるんじゃないか? ということ。人間には、やはり「美味しくて安全な野菜を、できるだけ沢山収穫したい・・・できればお金にならんかな?」みたいな理想がありますが、自然の側からすれば、「お金? 美味しいの?」みたいな。まあ、人間の側のリクエストも聞いてくれるのですが、もっと大きな理想のなかで動いているのが自然なんだろうなあ・・・みたいなことを思うことが多いです。


 ペレランドラのミシェルさんも言っていますが、畑に植わっている野菜は、人間の食べ物であるのと同時に、虫さんや鳥さんたちの食べ物でもあって、自然の妖精さんとしては、人間だけでなく他のすべての生き物たちにも、美味しくて安全な野菜を食べさせてあげたい・・・みたいな思いがあるのかもしれません。まあ、虫さんや鳥さんの食べ残しを人間である私たちが口にすればいいのでしょうが・・・実際には、彼らも遠慮がちで、環境のバランスがとれている限りは、あまり作物を食べないみたいです。鳥さんたちも、作物そのものよりも、作物につく虫さんたちの方が好物のようだし、虫さんたちも作物よりも雑草の方が好みに合うようで、除草をしないである程度、雑草を生やしておくと、そちらの方を優先するみたいです。


 まあ、そういう意味では、自然の側の「理想」というのは、「生物多様性」にあるのかなあ? と思ったりするわけです。つまり、沢山の種類の沢山の生物を養うことのできる畑が理想の畑であり、生物多様性を維持するだけでなく、さらに限界突破して増進するような農業が、理想の農業なのではないか? というわけです。


 昔、アメリカでインディアンの居留地および居留地跡で生態系調査をした研究者がいて、調べてみると人が住んでいる場所の方が、観察される生物種の数が多かったと報告しています。これは、手入れの行き届いた里山などにも言えることかもしれませんし、水田を見ていてもそう思うのですが、本来、人間の生活や農業の営みというものは、自然を破壊するものではなくて、むしろ、自然を豊かにするものだったのではないかと思います。そういう意味では、自然を観察したり保護したりするという従来のアプローチを超えて、自然との共創によって、今までになかったような豊かな自然環境を実現していくことを目指してもいいのかもしれません。


 「25世紀の地球にとって必要な人間って、どんな人間だろう?」と考えた時、もし500年後も地球が存続しているなら、地球の生態系を守るだけでなく、その可能性をさらに引き出してくれるようなガーデナー(庭師)さんが必要なんじゃないかなあ? なんてことを思いました。いや、そもそも人類がこの星に招かれた目的(聖なる契約?)も、地球の生態系のエヴォルーション(あるいはインヴォルーション)を促進することにあったのではないでしょうか?


 雲風農園で、日々、ダンゴムシさんやミミズさん、オケラさんをつんつんしている変なおじさんの頭の中・・・う〜ん、なかなか理解不能なことが多いのですが、まあ、こんなことを考えながら、「妖精さんの野菜」のブランド化を画策しているということで・・・そろそろ、お後がよろしいようで。