妖精さんの独り言 3−1

地域再生マネジメントのための思考術


◆要約◆

 自分で言うのは何ですが、思ったよりも長くなってしまったので、最初に章立ての紹介をしておきたいと思います。


1.はじめに
2.思考とは何か
3.現場の思考術
4.イメージの共有から意識の共有へ
5.農業の思考術
6.農業のアナロジーから見た地域再生
7.おわりに


 だいたいの流れとしては、まず、思考とは何かということと、基本的な思考方法や論理形式の説明をした後、建築現場で身体を動かすなかで身についた思考法について述べ、さらには農業研修のなかで身についた思考法について述べます。そして最後に、農業を喩え(アナロジー)として、地域起こしや地域再生のプロセスについて考える・・・という無謀な試みに乗り出します。
 おそらく、最後はまとまりません(TT)


◆はじめに◆

 何かいきなり「地域再生マネジメントのための思考術」などと言う、大上段に振りかぶったテーマを掲げてしまいました。昔取った杵柄? で、手元に資料や文献がないなかで、どこまで語れるか? という問題はありますが、まあ、まずは思考と思考法について、適当にあることないことをまとめてみようかと思います。私も必要以上に長い年月を学校で過ごして、学ぶ側と教える側に身を置きましたが、「これについて考えなさい」とか、「この問題の答えは何ですか?」「この問題の解決方法を考えなさい」みたいなことばかり言われるのに、「思考とは何か?」「考えるとはどういうことなのか?」ということについては、ほとんど教えてもらえませんでした。「考えろ! と言うけど、どうやって考えたらいいの?」「自分では考えているつもりだけど、結論や答えが出ないのはなぜ? 頭が悪いから? 考え方が悪いから?」みたいな疑問に襲われて、「じゃあ、考えるというのは、どういうことなんだろう?」ということを調べ始めたのですが、これがまた、そういうことについてきちんと考えている人が少ないし、そのことをまとめた本も少なかったりします。


 いわゆる「思考法」「発想法」「ディスカッション法」についての本は沢山出ているのですが、それぞれが個別的なスキルを紹介していて、「紅茶キノコが健康にはいい」「いや、キチンキトサンがいい」「いやいや、コラーゲンが大事」「いやいやいや、やっぱり青汁でしょう」「いやいやいやいや、コエンザイムQ10が一番」・・・みたいな感じで、無数にある思考法の全体像や効果的な組み合わせ方について論じた本というのは、あんまりなかったりします。そんなこんなで、大学の演習の授業で、1から思考について教えていたのですが、何しろ教える方の頭が悪いというか、そもそも自分が分からないので勉強していることを、人様に伝えようとしたことに無理があったようで、学生さんたちも口をあんぐり(0)という感じでした。


◆思考とは何か◆

 とは言いつつ、うろ覚えのその演習のカリキュラムを振り返ってみて、箇条書きにしてまとめてみると・・・


①人間の認識機能としての、思考・感情・身体感覚

エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学

エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学


②記憶の仕組み  記憶術の実際

記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック

記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック


③論理とは何か? その1 演繹法帰納法
④論理とは何か? その2 弁証法
⑤論理とは何か? その3 因果論と科学的思考

思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践

思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践

⑤創造的思考の方法 その1 発散的思考と収束的思考
⑥創造的思考の方法 その2 ブレストとKJ法

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

⑦創造的思考の方法 その3 マインド・マッピング

ザ・マインドマップ

ザ・マインドマップ

⑧論理的思考の方法 その1 ロジカル・シンキング

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

⑨論理的思考の方法 その2 システム・シンキング

システム・シンキング入門 (日経文庫)

システム・シンキング入門 (日経文庫)

⑩論理的思考の方法 その3 シナリオ・シンキング

シナリオ・シンキング―不確実な未来への「構え」を創る思考法

シナリオ・シンキング―不確実な未来への「構え」を創る思考法

⑪論理的思考の方法 その4 アナロジカル・シンキング

アナロジーの力―認知科学の新しい探求 (新曜社認知科学選書)

アナロジーの力―認知科学の新しい探求 (新曜社認知科学選書)

⑫論理的思考の方法 その5 クリティカル・シンキング

クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則

クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則

⑬集団的思考の方法 その1 効率的な会議の進め方

ミーティング・ファシリテーション入門―市民の会議術

ミーティング・ファシリテーション入門―市民の会議術

⑭集団的思考の方法 その2 学習する組織

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

⑮思考を超えて 直観を磨くためには




・・・みたいな内容でした。まあ、講義ではなくて演習だったので、毎回、発想法や思考法のあらましを紹介して、テーマを与えて「君たち、実際にこれを使って考えてみたまえ!」「ちなみに、先生も頭が悪くて、よく分からんから、質問されても答えられません。分からんところは、周りの友達に聞いてね!」みたいな感じで、グループでディスカッションさせていました。講義時間のなかで、いかに講師の喋る時間を減らして、学生が議論する時間を増やすか? 講師が考える時間を減らして、学生が考える時間を増やすか? に命を賭けていたのですが・・・よく考えると、それはいかにサボるかを考えていた・・・ということだったようで(TT)


 ちなみに、上記のカリキュラムのなかでは、その1→その2→その3→・・・という順番で、より高度かつ複雑な思考法を紹介していきました。「抽象度が上がる」という言い方もできますが、思考や論理の次元の違いも意識しておかないと、議論がかみ合っているようで、実はとんでもなくすれ違っていた・・・みたいなことが起きてしまいます。さらに言えば、思考次元での発言なのか、感情次元での発言なのか、はたまた身体感覚の次元での発言なのか? ということも整理しておかないと、「男と女の間には渡れない深い河がある」という感じで、議論が成立しない可能性が高くなります。むしろ、感情や身体感覚の方が、直観的な知恵とはつながりやすいのですが、議論をしているときには、交通整理が必要です。


 で、まあ、世の中には雨後のタケノコのように沢山の思考法や発想法があるわけですが、最低限、抑えておかないといけないポイントは、「帰納法」「演繹法」「弁証法」という3つの論理の立て方と、「科学的思考(実証的思考)」、「発散的思考」と「収束的思考」の違いと組み合わせ方、そして「意思決定のタイミング」くらいなところでしょう。そうは言っても、今や本当にうろ覚えで・・・うまく説明できるかどうかも分かりませんが、あることないこと適当なことを並べてみると・・・


 「帰納法」とは、観察や調査、実験を通してデータを集めて、そこからある命題や結論を導き出すという論理の進め方を言います。これに対して、「演繹法」とは、三段論法的に、「人間は死ぬ」→「ソクラテスは人間だ」→「ゆえに、ソクラテスは死ぬ」というふうに、大前提から出発して、物事の是非を推論していくという論理形式を指します。基本的には、「帰納法」によって前提となる命題を確立したら、その命題を出発点として、「演繹法」によって新しい事象や未知の事象についても推論していく・・・という流れのようです(間違っていたらごめんなさい)。


 さらに、「弁証法」というのは、「正反合」とも言いますが、「正」と「反」という対立する意見、対立する立場を、その両者を含み込むような高い次元の意見や立場=「合」を打ち出すことによって、解決していくような論理の進め方を言います。地域のなかで対立が起こっても、「地域を良くしたい」「地域を再生したい」という意志や動機の次元で一致できれば、その具体的な方法では意見が違っていても、根っこのところでは協力できるかもしれない・・・みたいなことですね。


 次に「科学的思考」(実証的思考)ですが、これはまた、「仮説検証的思考」と言われることもあります。大雑把な流れとしては、ある出来事Aと別の出来事Bが、時間的に近接して起こった時に、「出来事Bの原因は出来事Aではないか?」という仮説を立てることができます。そして、その仮説を検証するために実験や調査を行ない、出来事Aがある場合とない場合に、出来事Bが起こるかどうかについて、データをとります。そして、出来事Aがある場合に出来事Bが起こる確率が統計的に高ければ、「出来事Bの原因は出来事Aの原因である」と結論できるわけです。


 例えば、関東や東北で2011年以降、脳卒中心筋梗塞で倒れる人が増えているとか、橋本病やバセドー氏病などの甲状腺疾患が増えているとか、あるいは葬儀場がいっぱいになっているとか、そういう変化(=情報)が見られた時に、当然、そうした変化と時間的に近接して起こった事象の影響を疑わなければならないわけです。つまり、「福島第一原発から拡散した放射能による被曝が原因で、これらの疾病の増加や死亡者数の増加が生じているのではないか?」という仮説を立てて、その是非を実際の調査や実験によって確かめて、因果関係をはっきりさせる・・・というのが、「科学的思考」なわけです。


 それから、「発散的思考」と「収束的思考」というのは、「発散」「収束」の言葉の通りです。ある問題やテーマに関して、新しい思いつき、変なアイデア、ありえそうにないことを、とりあえず実現可能性や合理性は置いておいて、どんどん出していってアイデアを広げていくのが「発散的思考」です。この作業を行なう時には、個人で行う時には自分の頭のなかで、グループで行うときには他人のアイデアに対して、「馬鹿げている」とか「あり得ない」とか「意味がない」とか、そういう批判やストップをかけないことが大事です。で、「発散」のコツとしては、類似・隣接・対立という「連想」の3形式をヒントにすると、面白いアイデアが出てきます。要するに、「他に似ているものはないか?」「空間的、時間的、集団的に、隣にあるもの、近くにあるものはないか?」「対立するもの、真逆のものは何かないか?」を調べてみるわけです。


 こうして「発散的思考」によって沢山の下らないアイデアを出した上で、今度は、「収束的思考」によって、アイデアを分類し、階層化し、論理的に結びつけて、一つの結論を導きだしたり、そのテーマに関する全体像をまとめたりします。こうした作業を視覚的に行うためのツールとして、KJ法やマインド・マッピング法などがあります。で、この収束過程においては、「えっと、新しいことを思いついたんだけど!」とか、「話は違うんだけど!」みたいなことが御法度になります。何しろ、あらゆる会議、あらゆるディスカッションにおいて問題になるのが、色々なアイデアを出し合おうとしている時に、いきなり結論やまとめに入ろうとしたり、新しいアイデアにケチをつけたりする人が現われたりすることと、逆にアイデアを整理して結論をまとめようとしている時に、新しい思いつきを持ちだして議論をかき回す人が現われることです。マネジメント講座でも、毎回、変な質問をして先生方の話を壊そうとする人たちいますよね!?(すみません)


 例えば、地域でカラスが増えて困っている・・・という問題をテーマにして議論するなら、まず、カラスが増えた原因について、「発散的思考」でアイデアを沢山出した上で、「収束的思考」で原因を整理して、いくつかの原因にしぼってみます。次に、そのいくつかの原因を解決するためにできそうなことについて、「発散的思考」で色々とアイデアを出してみて、アイデアが出つくしたら「収束的思考」で分類して解決策を絞っていきます。そして、最終的には実行可能かつ検証可能な解決策を決定して、実行に移す。要するに、「発散的思考」→「収束的思考」→「発散的思考」→「収束的思考」というプロセスを踏むわけですが、これの交通整理をきちんと行って、「発散的思考」と「収束的思考」が入り混じって混乱しないようにするのが、会議や議論の進行役・司会者の役割ということになります。


 最後に、意思決定のタイミングですが、これに関しては「データが8割方揃ったら、意志決定を行なって、実行に移さなければならない」と言われています。特に、企業における意思決定がそうですが、完璧を期して、必要なデータや情報が100%集まるまで待っていると、十中八九、タイミングが遅すぎて、状況の変化に乗り遅れたり、ライバル企業に出し抜かれたりするそうです。人によっては、「6割のデータや情報で動かないと遅い」と言う人もいますが、実際に実行して結果を出すことに意思決定のための「思考」の目的があるのですから、完璧かつ正しい答えなど目指さないで、8割で見切り発車して、後はPDCAサイクルを回しながら、臨機応変に現場で考える・・・のが大事みたいです。