妖精さんの独り言 3−3

◆イメージの共有から意識の共有へ◆


 この作業工程のイメージを作業者全体で共有できると、現場での作業は有機的かつ効率的に、まるで生き物のようにうまく進んでいきます。個人的には、そういう現場のなかで2年間過ごしたおかげで、全体のなかの一部として、いまこの瞬間に自分がやるべきこと、やらないでいいこと、他の人に任せた方がいいこと、後回しした方がいいこと・・・を適当に即断するセンスが身に付いたと思っています。とは言っても、それは自分が思っているだけで、どうもマネジメント講座では、二日酔いで寝ていたり、蜜蜂に気を取られてふけていたり、場違いな質問をしたり・・・予定調和を乱すようなことばかりしているような気がするので、せっかく身に付いたセンスがなくなったのかも。


 まあ、それはそれとして、色々な現場を渡り歩いたなかでも、優秀な職長さんというのは、朝礼の後、「ご安全に!」をする前に、その日の仕事内容、工程、注意点を的確に伝えて、応援も含めた作業者の頭のなかに、はっきりとしたイメージが浮かぶようにしていました。そして、10時の休憩、昼休み、15時の休憩というポイントで、作業の進捗状況を確認して、修正や変更、人員の補強を行なって、17時に仕舞まで終わるように臨機応変に対応していました。つまり、最初に明確なイメージを与えておいて、一服するたびに、現場の状況に即してイメージの修正を図って、それを共有できるようにしていくわけです。それと同時に、何か問題が生じた時には、職人さんたちを集めて、現場で「集団思考」を走らせて、対応策を考えて、即実行して、それでもうまくいかなければ、次の手段を考えて・・・何しろ仕事をきちんと終わらせようとします。


 こうしたイメージの共有を踏まえて、何度も「集団思考」によって問題を克服していくなかで、何となく相互の信頼に基づく「場の雰囲気」みたいなものが出来てきます。これは「場の意識」と言い換えてもいいかもしれませんが、その意識に合わせていくと、職長さんからの指示が出る前に、何となく「次はこれ、その次はこれだから、あの人はあっちの作業をして、僕は次の作業の段取りをして・・・30分後にそれが終わるから、それに合わせて、この道具を段取りしておかないと・・・」みたいなことが分かるようになってきます。それでも、時々、先走り過ぎて怒られたりするのですが、それはそれで修正していくと、だんだんと全体の意識が合うようになってきます。


 まあ、面白いもので、坊主は最初は先輩の職人さんの手元をして、溶接やら何やらの手伝いをするのですが、最初はともかくとして、しばらくしたら何も言われないでも必要な道具や資材を、ドンピシャのタイミングで渡していかないと・・・どつかれる(TT)要するに、職人さんの意識に合わせる練習をするわけです。それができるようになると、溶接や溶断の技術を教えてもらって、練習させてもらえるようになり、まあ、あまり重要でないところから作業を任せてもらえるようになります。そして、今度は先輩の職人さんの意識ではなく、現場全体の「場の意識」に、自分の意識を合わせていくようになっていきます。


 この「場の意識」に敏感になってくると、「何か今日は朝からゾワゾワして落ち着かない雰囲気だなあ!? 怪我などのアクシデントが起こりやすいから注意しなきゃ!」とか、「今日はすっきりとまとまった雰囲気だから、スイスイ仕事が進むんじゃないかな?」とか、そういう予測もつくようになってきます。で、さらには、その「場の意識」を整えるために、「ちょっと暗い感じだから、冗談でも言って盛り上げよう」とか、「しんどいけど、この作業をしておいてあげたら、全体が楽になるだろう」みたいな工夫を考えるようになります。つまり、自分という視点だけでなく、全体の場という視点からも動くようになると、現場の中での動きの質が大きく変わってきて、何も考えていないのに直観的に、いつでも適時・適材・適所にいるみたいな感じで動いていて、あっという間に定時が来て、仕事が終わる・・・みたいな感じになってくる・・・ところまでは行かなかったかなあ!?(残念)


出現する未来 (講談社BIZ)

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