妖精さんの独り言 3−4

◆農業の思考術◆


 これが農業の実践になってくると、人間の都合だけではなくて、作物の側の都合、土壌条件、自然や四季のタイミング、気候や気温、降水、風、日照などの自然条件など、変数が非常に多くなってくるので、日々、臨機応変に頭と手を使わなければならなくなります。ただ、その時に、目の前の植物の生育状況や田畑の状況に基づいて作業をするか、それとも農協さんの栽培指針に基づいて作業をするか? という問題もあって、栽培指針という設計図に頼り過ぎて、現場で工夫し変更するという努力を怠ると、時々、思ってもいない形で足を掬われることがあります。
 

 特に注意しなければならないのは、大きく育った時にどれくらいのスペースが必要になるか? 日照条件にはどんな変化があるか? 大雨が降った時の排水は大丈夫か? 乾燥が続いた時の潅水の手配はどうするか? などの点です。つまり、植物は生長し変化する生き物なので、その生育プロセス全体を考えて栽培条件を整える必要があるし、短くても3カ月、長ければ半年というスパンのなかで生じる、季節の変化や悪天候による災害の可能性も、あらかじめ想定しておかないといけないわけです。植物の成長後の姿を「絵に描いてみる」だけでなく、悪天候や季節の変化に応じて圃場条件がどう変化するについても「絵に描いてみる」が必要あるわけです。


 また、圃場にトラクターやコンバインなどの機械を入れる時には、どういう経路で、どういう順番で耕転や刈り入れを行なえば、轍を残さずに合理的かつ効率的に作業を行なえるかを考える必要もあります。同様に、動力噴霧器で防除を行うときにも、どこにダンプを停めて、どうやってホースを段取りするか? を圃場ごとに考えないといけないのですが、その時にも前もって「絵を描いておく」ことが必須になります。


 以上を踏まえて、実際の農作業のプロセスとしては、土壌改良剤や堆肥を入れて土作りをして、作付け前には元肥を入れて耕転・畝立て・マルチ張りをし、播種・定植・灌水をし、中耕・土寄せ・除草をし、支柱を立てたり、寒い時にはトンネルを設置したりし、病気や害虫の気配を感じたら予防的に防除し、2度目3度目と繰り返す時には、農薬抵抗性病害虫を出さないように農薬の配合を変えて、収穫期を見定めて収穫し、収穫したものを洗浄・調製・荷造りして、農協の共同販売や直売所に出荷する。また、収穫が終わった畑からは残渣を持ちだして、次の作付けに備えて、土改剤をまいて休ませておく・・・というのが、基本的な作業の流れです。米麦をはじめとして、野菜・果樹・花卉など、様々な品種を栽培していると、そのそれぞれで生育過程や生育条件に違いがあるので、肥料の種類や配合、農薬の適用、畝立ての仕方、圃場の条件などを考えながら、適時・適地・適作を図っていかないといけません。


 そうやって苦労して収穫した作物が、高く売れればいいのですが、市況の変動や直売所の販売状況によっては、大きく値崩れして利益が出ないことも多々あります。これに対応するために、主力の作物では、時期をずらして何度も作付けして、収穫期間を長くすることで、高く売れた時期と安くしか売れなかった時期を平均すると、少し儲かるくらいのところを狙います。